刊行

都市計画324号
内湾から都市のビジョンを考える

 古来,水辺に人は住んだ。奥深く安定した内湾環境が,都市の発達を促し育んできた。安全な港は交通の要所となり,豊かな自然環境を持つ内湾は都市に暮らす住民に,食,景観(観光名所)をはじめとする,あらゆる種類の豊かさを与え,地域独特の文化を生み育ててきた。

 また,埋め立てが,時の経済情勢・政策に応じてすでに江戸期よりすすめられ,臨海部開発が時代の要請を先進的に受容してきたように,内湾はプラス・マイナス両面における都市問題の解決の場として利用されてきたし,今後も活用しうるといえるだろう。戦後の高度経済成長期には,産業化の促進に寄与すべく,臨海工業地帯が形成された。ことに,東京湾,大阪湾,伊勢湾は,三大港湾として,背後にかかえる大都市を支え,日本の産業発展の根幹となってきた。80年代,物流や工業の立地が集約化され,もともとの港湾地域に遊休地が出始め,その土地を商業や住居・オフィス等に活用する,ウォーターフロントのまちづくりが注目され始めた。そして現在,さらに水辺を街に積極的に取り込み,そこで活動しようとする動きが出始めている。

  しかしながら特に東京においては,2020年のオリンピック・パラリンピック開催を控え,全体構想が見えないままに,個別の開発がすすむことへの懸念も払拭できない。

  内湾から都市を見直せば,数千年~数十万年の単位で形成されてきた内湾の自然環境史とそれに伴う都市形成プロセス,数百年の単位で内湾が生み出してきた都市文化,そしてこの百年~数十年の産業化による都市の発展と,都市計画が抱える現在の課題が同時に捉えられるのではないかと考えた。「都市」に対して抱く一般的なイメージに,新たな視点を付け加えられるのではないかと考えた。

 広大な自然環境を抱え込む内湾の多様性と豊かさ,港町の歴史と文化性,港湾としてのインフラ基盤は,我々に,成熟したエコロジカルな文化都市を構想する場を与えてくれるのではないだろうか。

(編集担当:竹沢 えり子)

目次

地図の中の風景

海のレイヤー状ゾーニング
 横内 憲久


支部トピックス


特集:内湾から都市のビジョンを考える

【口絵】

江戸・東京湾図録 港湾計画図,測量図にみる建設と自然の間
 田下 祐多・三谷 徹

【巻頭インタビュー】

湾から見る都市 ―トータルなビジョンと仕組みをめざして
 陣内 秀信

【数万年の単位から,内湾と都市の関係を考える】

東京湾とそれを取り巻く自然環境史と人の活動史
 辻 誠一郎

「水都大阪」のテリトーリオ ―後背地との関係からみる大阪「内湾」の変遷
 篠沢 健太

長期的な時間スケールで見た伊勢湾奥域・濃尾平野の発達史と巨大災害を引き起こす自然現象
 丹羽 雄一

【環境再生への道】

内湾における環境再生の課題 ―官民連携による生き物生息場つくりの取り組み
 佐々木 淳

伊勢湾流域圏の再生 ―自然共生型流域圏管理の視点から
 辻本 哲郎・戸田 祐嗣・尾花 まき子

三河湾再生と森林管理
 蔵治 光一郎

都市の水循環とグリーンインフラ ―古東京川水系を源流から再生する
 神谷 博

【内湾からみた都市の文化とデザイン】

海とつながる都市性
 小浦 久子

海洋の「かたちと力」 ―東京港湾内埋立地にみる形態決定要因のメタモルフォーシス
 三谷 徹

観光リゾート地としての内湾
 十代田 朗

【内湾をめぐる計画論】

国際コンテナ港としての東京港と日本の港の可能性
 渡辺 日佐夫

水運と物流の歴史からみた東京の再生
 苦瀬 博仁

陸路,水路,航路,空路を抱える内湾都市の総合的防災 ―首都直下地震時における総合啓開
 前川 裕介・小玉 乃理子・村上 亮・津田 哲平

みなとまちを「ひらく」 ―機能分化型臨海部から価値創出型臨海部創出に向けて
 野原 卓

【編集後記】
 竹沢 えり子


連載 立地適正化のプラン・メイキング

北九州市立地適正化計画の策定について
 松本 進

鶴岡市の立地適正化計画策定について
 早坂 進


国際協力の都市計画

「国際協力の都市計画」連載にあたって
 松原 康介・志摩 憲寿

新首都を造る ―カザフスタン・アスタナ
 山田 耕治


書籍探訪・新刊レビュー|総務・企画委員会


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