刊行

都市計画325号
都市解析のためのモデルとデータ:理論と実践の架け橋

 都市計画における数理的手法の開発と適用は,施設の最適施設配置を取り扱う「都市解析」,土地利用や人口の予測を行う「地域解析」,ヒトやクルマの動きを扱う「交通需要分析・交通流解析」などの枠組の中で主に検討され,様々な展開がなされてきた。本誌においても,第161号「都市解析(1989年)」,第264号「都市解析の美とリアリティ(2006年)」などの特集が組まれたことがある。今回の特集号は,以上のような経緯を踏まえつつ,近年における“都市の数理解析”に係るモデリングやデータ解析の方法論(理論)と,それらの政策課題への活用(実践)について,各分野を代表する研究者や実務者に概説して頂き,都市解析のための数理研究の今後の方向性を展望することを企図している。

 「都市」を巡る数理解析の手法に関しては,近年特に周辺関連分野での進展が著しい。都市経済学・地域経済学・国際経済学を包含するような空間経済学の確立や,物理学を基盤とする都市や交通のビッグデータ分析の進展などはその代表例である。これらの領域では,現実の都市政策・計画の定量的予測・評価に耐え得るリアル性(時間的・空間的な分解能の細かさ)を兼ね備えた多様な数理的手法・データ解析手法の蓄積が進みつつある。他方,都市計画分野で従来から取り扱われてきた枠組(国土・地域レベルの分析,都市レベルの分析,土地利用・交通需要予測等)の範囲内でも,この十年で大きな理論の進展が見られる。特に,防災,次世代モビリティ技術,環境,地方創生など,従来の分析枠組では捉えきれない新たな都市政策課題の出現に呼応して,様々な数理解析手法の開発が進んでいる。そして,このような様々な理論の進展を下支えしているのは,携帯電話基地局情報,企業間取引情報,リアルタイム動画像情報等,長期広域で観測される様々なビッグデータの存在であろう。「理論とデータは学術進展の両輪」と言われることがあるが,都市の分野でも然りである。

 特集の構成は以下のとおりである。はじめに,数理分析と都市デザインについての総論を羽藤氏より述べて頂いた上で,数理解析・ビッグデータ解析の今後の展望に関する座談会の要約をまとめている。それ以降は個別記事となり次の四つに大別される。まず,(1)国土・地域レベルでの研究動向の最前線について,高山氏,中島氏より解説して頂く。次に,(2)都市空間レベルでの最新の研究動向について,本間(裕大)氏,宮川氏,本間(健太郎)氏,小池氏より,それぞれ解説頂く。引き続いて,(3)都市のビッグデータ解析に関して,白川氏・鈴木氏,犬塚氏・阿部氏,福田氏,古橋氏,太田氏の順番で,それぞれの取り組みを概説頂く。最後に,(4)都市の新たな政策課題への対応という観点から,大佛氏,浦田氏・井料氏,谷川氏,谷本氏,讃岐氏より,論考をご寄稿頂いている。

 本特集号が,都市計画における数理モデル分析と現場実践とはどのように関連すればよいのかを考える上での契機となれば幸いである。

(編集担当:福田 大輔・伊藤 香織)

目次

地図の中の風景

白地図と着色地図と空間と人間
 高松 誠治


支部トピックス


特集:都市解析のためのモデルとデータ:理論と実践の架け橋

【巻頭言】

都市の不動点:デザインと数理の行方
 羽藤 英二

【座談会】

都市の数理モデル・ビッグデータ解析研究の今後の展望
 吉川 徹×羽藤 英二×伊藤 香織×福田 大輔

【国土空間規模でのモデリングの展開】

空間経済分析と新経済地理学 ―経済活動の都市集積メカニズムを考慮した経済モデル
 高山 雄貴

ミクロ立地データを用いた集積の検証法 ―ネットワークデータへの応用の観点から
 中島 賢太郎

【都市空間規模でのモデリングの展開】

施設配置とその周辺
 本間 裕大

代替燃料車ステーションの立地分析
 宮川 雅至

商圏分析 ―ボロノイ図から離散選択モデルまで
 本間 健太郎

応用都市経済モデル(土地利用・交通モデル)の理論展開と実用化
 小池 淳司

【都市のビックデータ解析の展望】

ビッグデータで解明される人口動態とその可能性 ―モバイル空間統計が作る未来の都市・交通計画
 白川 洋司・鈴木 俊博

駅構内カメラの配信による駅流動の視覚化:駅視-vision
 犬塚 真一・阿部 穂嵩

三次元仮想空間(VR)研究の動向と現場実践 ―拡張・隠消現実感,深層学習等の技術進展とともに
 福田 知弘

都市空間解析のためのオープンデータ(OpenStreetMap等)の現状と今後の展望
 古橋 大地

交通ビッグデータ・エコシステム ―ナビゲーションサービスを通じたデータ価値の還元
 太田 恒平

【都市の新たな政策課題への対応】

都市防災・減災研究におけるシミュレーションモデルの展望 ―大地震時における木密地域の物的被害と人間行動の統合型シミュレーションモデルを例に
 大佛 俊泰

都市の大規模交通シミュレーションの展望と可能性 ―大都市圏における地震津波総合防災にむけて
 浦田 淳司・井料 隆雅

“都市重量の計測”を通じた持続可能性の検討 ―4d-GISモデルを活用した物質ストック・フロー分析に基づく都市代謝の定量化
 谷川 寛樹

少人口地域における生活サービスに関する数理計画モデル
 谷本 圭志

商業施設の撤退の数理分析
 讃岐 亮

【編集後記】
 伊藤 香織・福田 大輔


都市計画トピックス

都市のコンパクト化がもたらす「生産性革命」 ~訪問系事業の生産性向上効果の理論式試案
 石井 秀明


連載 立地適正化のプラン・メイキング

佐久市の立地適正化計画について
 藤巻 和也

尼崎市における立地適正化計画策定について
 相馬 美津子


国際協力の都市計画

都市を総合的に描く ―セネガル・ダカール
 十倉 将


書籍探訪・新刊レビュー|総務・企画委員会


学会ニュース