刊行

都市計画363号
関東大震災百年:近代復興から現代復興へ

 本号は,関東大震災百年の特集号である。

 都市計画学会誌で関東大震災百年の特集を,という空気は,2021 年 3 月「東日本大震災,復興 10 年の到達点とこれから」を刊行した時点から感じていた。東日本大震災10 年特集では,復興に直接従事された会員諸氏にそれぞれの想いを執筆いただき,「復興と共創のエリアマネジメント」といった,平時の都市計画に再接続されるべき,新しい計画技術の可能性も導出された。

 それでは百年後の「いま」から振り返る特集号とは,どんな切り口になり得るか。すでに都市計画分野の研究としても,復興区画整理事業や同潤会アパートメント,復興公園といった学術的知見が共有されている中,企画編集をスタートさせた。結果的に今回,次の三つの視点から,振り返りがなされたように思われる。

 第一に,歴史的事実の考察から将来を展望する,という視点である。消火活動から国民防空の展開,関東大震災と都市の不燃化,区画整理事業と換地技術といった,発災時対応と帝都復興事業,その後の都市計画技術展開を考察した論考が挙げられる。第一の視点は東日本大震災10 年特集号での論説も含め,都市復興研究の基底にもある方向性と言えよう。

 第二に,「いま」の視点で歴史的事実を発掘するという方向性である。百年後の「いま」から見ると,都市計画学においてあまり意識されてこなかった領域があるのではないか。帝都復興院での審議記録を含め,計画事業者側は,多くの記録を残している。一方で生活や生業に関する被災者の主体的な営み,言い換えれば,今日の災害復興まちづくりにおいて,当然に対象となっているテーマについては,当時の記録も断片的であり,歴史的事実の発掘含め,都市計画学として考えていくべきではないか,という視点である。

 第三に百年の時間軸で,都市計画の計画思想や計画文化,計画論の遷移・転換を考察するという方向性である。その点から本特集号は副題に「近代復興から現代復興へ」を掲げた。渡邊俊一氏,田中正人氏,そして編集担当委員によるインタビューと論考,そしてまとめの座談会「近代復興の行き着き先と現代復興」は,この点に正面から向き合った一つの到達点である。

 なお少々意外なことに,これまで本誌では50 年や80 年といった節目で関東大震災特集を取り扱っておらず,関東大震災を特集として据えたのは本号が初めてである。今回,牧紀男,岡村健太郎,益邑明伸の 3 人に編集担当に加わっていただき,思考と議論を続ける中で,発行に至った。

(編集担当:牧 紀男・岡村 健太郎・益邑 明伸・市古 太郎)

目次

地図の中の風景

帝都復興:近代都市への復興提案と深まった都市計画への関心
 市古 太郎


支部トピックス


【総論】

地図と振り返る関東大震災100 年
 益邑 明伸

帝都復興の史的意義と将来への示唆
 渡辺 俊一

近代復興の始原としての関東大震災─帝都復興が直面した3 つの困難
 岡村 健太郎

近代復興・現代復興に関する所感─令和の復興
 牧 紀男

「近代復興」を終わらせることはできるか?─「公共の福祉」と被災者一人ひとりの主体的実践の権利
  田中 正人

【関東大震災と帝都復興に関するインタビュー】

日本都市計画史と帝都復興─帝都復興を日本近現代都市計画史にどう位置づけるか
 秋本 福雄

政治学からみた震災復興と都市計画─関東大震災から東日本大震災まで
 御厨 貴

現在まで続く「復興」概念の倒錯と,東京のリスクと魅力と
 吉見 俊哉

関東大震災からの100 年─近代復興から現代復興へ
 中林 一樹・関澤 愛

【帝都復興と市街地整備・住宅政策・経済物流に関する展開】

関東大震災に始まる国民防空の展開─歴史に学ぶ災害教訓の扱い方
 吉川 仁

災害復興が進化させた土地区画整理─換地処分を中心とした実務者の視点からの考察
 簗瀬 範彦

関東大震災と都市の不燃化
 栢木 まどか

関東大震災から戦後に至る都市の災害復興と住まい
 黒石 いずみ

関東大震災復興を住宅再建から再考する
 越山 健治

関東大震災時のトラックによる復興輸送と東京圏貨物輸送への影響
 河村 徳士

焼跡での経済活動と地域の復興─関東大震災後の東京市の経験を考察する
 今泉 飛鳥

【公的・民間ディベロッパーの取組み】

関東大震災時の丸の内における三菱の対応─災害対応の精神と大丸有地区におけるエリア防災
 高瀬 太郎

三井本館今昔物語
 三井不動産株式会社S&E 総合研究所

同潤会,住宅営団,住宅公団,都市再生機構による震災戦災復興への取り組み
 海老塚 良吉

関東大震災に始まるサステナブルな田園都市─東急沿線まちづくりのこれまでとこれから
 太田 雅文

【帝都復興に関するアーカイブス研究】

紙もの資料で関東大震災とその後の復興をたどる─被災者たちが手元に遺した「思い出のよすが」
 田中 傑

【編集後記にかえて】

近代復興の行き着き先と現代復興
 牧 紀男×田中 正人×岡村 健太郎×益邑 明伸×市古 太郎


官民連携による公共空間の利活用を通じたウォーカブルなまちづくり

ウォーカブルなまちづくりを支える座組・職能のあり方
 泉 英明


コロナ禍は都市と都市計画をどのように変えるのか?

[対談]コロナが都市に及ぼした影響とこれからの都市
 羽藤 英二×仲田 泰祐


書籍探訪・寄贈図書レビュー|企画調査委員会


わたしとあの街

マルセイユ(フランス)
 鳥海 基樹


学会ニュース


【お詫びと訂正】

本号の掲載内容に誤りがございました。お詫びを申し上げるとともに以下のように訂正させて頂きます。

■ P. 12 地図データ出典
誤)震災復興土地区画整理事業区域:東京市は 文部省震災豫防調査會 編『東京市火災動態地圖 大正十二年九月大震災』(データ提供:市古太郎(東京都立大学))、横浜市は 横浜市『横浜復興誌第二編』の「附図 震災被害図」より作成、横浜市山下町復興土地区画整理事業区域は大沢・伊東・伊東(2014)を参考に作成
正)震災復興土地区画整理事業区域:復興事務局 編『帝都復興事業誌 土地區劃整理篇』より作成、横浜市山下町復興土地区画整理事業区域は大沢・伊東・伊東(2014)を参考に作成

誤)戦災復興土地区画整理事業区域:「戰災燒失區域表示帝都近傍圖」(画像提供:国際日本文化研究センター)より作成
正)戦災復興土地区画整理事業区域:東京都建設局区画整理部計画課 編『甦った東京 : 東京都戦災復興土地区画整理事業誌』より作成

■ P. 48 左段下から5行目、P. 49左段上から5行目、P49. 右段上から17・23・29・35行目
誤)高幅員
正)広幅員