戦後,急激に自動車社会が進展する中,都市内における駐車場整備の遅れが交通渋滞など様々な問題を発生させた。これに対応すべく昭和32年に駐車場法が制定され,駐車需要発生者に駐車場整備を義務付けた附置義務制度は,駐車場の量的確保を推進し,現在も駐車場政策の柱となっている。しかし,これらの施策は駐車場の量に起因する問題は改善してきたが「質的整備」と呼ぶべき新たな課題を発生させ,拡大成長を前提とした都市計画が曲がり角にある今,改めて駐車場とまちの関係を見直す必要がある。
駐車場は,都市内外の移動を支える付随的都市施設であるが,自動車の比重が高い現代では,交通機能ばかりでなく土地利用においても重要な要素となっている。加えて,都市の全域に分布していることから,都市デザイン,景観,環境,安全・安心など,まちづくりの様々な要素に大きな影響力を与えている。しかし,駐車場に関する我が国の制度をみると,量や構造など個々の駐車場に関する規定はあるが,交通政策や土地利用政策との整合など,まちづくりの視点に立った仕組みが整えられているとは言い難い。これは,整備の大半を民間に委ねてきたことにあわせ,平面利用や暫定的利用が多いなど土地利用として流動性が高いことも影響していると考えられる。また,景気低迷が続く地方都市では「とりあえず駐車場」という建物除却をともなう駐車場化が進行し,空洞化を助長することも危惧される状況にある。駐車場は,現代の都市生活において不可欠な施設であるが,量,配置,利用の仕方を含めて適切なバランスを維持することが重要である。都市機能の拡散が進んだ我が国の都市が,これから集約型都市構造を目指した再生を進める上で,交通政策は非常に重要な役割を担っており,特に土地利用に直結する駐車場はその成否を握っているかもしれない。
本誌においては,平成3年に都市とクルマの共存を目指した効率的で効果的な駐車場整備のあり方を論ずる特集が組まれているが,約20年を経過した今,駐車場の量的確保が進むとともに社会的背景も変化し,まちづくりの取組も進化している。本特集では,このまちづくりの要求の高度化とともに「駐車場の質的整備」が問われていると考え,法制度の評価を行うとともに,様々なまちづくの視点から駐車場に関する寄稿をいただいている。この他にも駐車場がまちづくりとリンクする課題は多々あろうが,これらの論文を契機に,交通機能に特化した近視眼的な駐車場整備から,まちづくりと整合の取れた駐車場の質的整備への関心が高まり,議論が深まることを期待したい。
(編集担当委員:木谷 弘司)
日本初の道路下駐車場
高田 邦道
大塚全一先生
苦瀬 博仁
駐車場問題を再考する
高橋 洋二
「駐車場再考~まちづくりと駐車場~」の編集にあたって
木谷 弘司
駐車場と街の新しい関係を目指して
岸井 隆幸
駐車場行政の経緯と今後の課題
菊池 雅彦
附置義務制度と大店立地法による駐車場整備の課題と展望
森本 章倫
路上駐車に関する法制度の整理と今後の展望
田中 伸治
都市の個性を活かしたまちづくりにおける駐車場政策の重要性 ~兵庫県・駐車場整備計画ガイドプランが目指す駐車政策~
一宮 大祐・土井 勉
京都市の歴史を活かしたまちづくりを支える駐車場のあり方と展望
酒井 弘
銀座の駐車場附置義務制度に関するローカルルール ─歩いて楽しい賑わいと風格のある街並みを維持・継承するための“銀座駐車場ルール”の実績と課題─
川﨑 興太
地方都市における中心市街地とその周辺部の駐車場問題 ─新潟県長岡市の実態からみた課題
樋口 秀
世界遺産・石見銀山遺跡の保全と観光・駐車場対策 ─世界遺産登録の前と後─
大國 晴雄
歴史的都心地区における駐車場立地と景観保全
大庭 哲治
まち並みを形成する駐車場デザイン ─丸亀町壱番街駐車場の試み─
高谷 時彦
緑化路面駐車場からみる都市環境デザイン 名古屋圏における空地・景観・エネルギー問題の改善策
伊藤 孝紀
自動車とまちの接続点 ─駐車場のユニバーサルデザイン
大沢 昌玄
駐車場事業者におけるまちづくりに配慮した駐車場事業展開
青木 新二郎
欧米における駐車場政策と駐車場整備実態
岸井 隆幸・大沢 昌玄
レンタサイクルを軸とした新たな駐車場事業展開 ~金沢市:大和あんしんパーキングの事例より
日川 陽一
氷川の杜うるおいのあるまちづくり推進協議会 氷川参道の環境整備に対する地域住民と市民の協働の場
中津原 努
リジョナリズムとローカリズム ~英国の政権交代の影響~
保井 美樹
カリフォルニア高速鉄道 ─公共交通依存社会への移行─
亀山 映理
バンブー都市のシンカ
田代 久美
2010年度(第45回)日本都市計画学会学術研究論文発表会
学術委員会