本特集は当初,『都市の脆弱性』として企画したものである。しかし,3月11日に発生した東日本大震災を受けて,脆弱性の考え方をより大きな枠組みで捉え直すことで再構成したものである。
巻頭論文として都市と地域システムの脆弱性と強靭性(家田)について,その動的構造やシステムが持つ内的な反応特性から論じることで,脆弱性と強靭性を巡る議論を見通しのいいものにすることを心がけた。次に都市経済の脆弱性(八田)では,ファンダメンタルズからエネルギーまで俯瞰的に都市経済の脆弱性を捉えた上で,東京の頑健性と脆弱性を論じた。都市の建築物と脆弱性(藤田)では木造家屋の時弱生の構造を,交通ネットワークに見る脆弱性と頑健性(古関)では鉄道ダイヤの脆弱性をとりあげ,都市の建築や交通の脆弱性を概観した。さらにジェロントロジーにおける脆弱性:住宅地における対応(前田・成田・追川)では豊四季台の高齢者住宅の事例を,ヴァルネラブルな人々への支援ともうひとつのインナーシティ再生(水内)では,近代都市のセグリゲーションを取り上げ包摂型の都市を論じ,都市における脆弱性(大田)では,都市計画の政治性をはじめとする様々な都市の脆弱性を歴史的に整理した。東日本大震災の広域的影響と大都市の脆弱性(石倉)では電力の損失を,計画停電が首都圏鉄道輸送サービスに及ぼした影響(福田)では,計画停電と鉄道輸送力の検討結果を論じた。また事例についてはフエ(福士)と対馬(樋口)の事例を具体的に取り上げ,脆弱の観点の違いを国際的な視点から考えた。
また,東日本大震災で垣間見た脆弱性を明らかにするために,室崎先生と横張先生,編集担当(家田・岡村・羽藤・朴)とで座談会を開催した。江戸の新田開発からランドスケープ,交通,防災文化論と都市に潜む脆弱性に関する議論は多岐に渡った。
都市における脆弱性の克服には,その概念を現場で起こっている状況と踏まえつつ学問的に検証し,深く掘り下げていくことが肝要である。今後の都市・地域像を見つめ直しながら,様々な脆弱性のダイナミックな生成メカニズムに着目し,概念や諸特性をはっきりと位置付けるとともに,「強靭性・頑健性」(toughness)を向上させるような方策を都市計画・まちづくりの中で考えていくことが重要であろう。
都市の脆弱性とは果たして何か?この問いに答えることは簡単ではないが,本特集号が読者の皆さんなりの都市の脆弱性を今一度考えてもらう一助となれば幸いである。
(担当編集委員:家田 仁,岡村 敏之,羽藤 英二,朴 乃仙)
古地図からみる清渓川の復原の意味
朴 乃仙
都市防災への目覚め
中林 一樹
都市と地域システムの脆弱性とその強靭化 ~巨大災害を踏まえて~
家田 仁
「都市と地域システムの脆弱性と強靱性:東日本大震災を踏まえて」の編集にあたって
家田 仁・岡村 敏之・羽藤 英二・朴 乃仙
都市経済の脆弱性
八田 達夫
ネットワーク上の意思決定とその脆弱性
羽藤 英二
都市の建築物と脆弱性
藤田 香織
交通ネットワークに見る脆弱性と頑健性
古関 隆章
ジェロントロジーにおける脆弱性:住宅地におけるその対応
前田 正人・成田 昌弘・追川 典子
環境リスクと都市の脆弱性 外部依存性の観点から
村山 武彦
ヴァルネラブルな人々への支援ともうひとつのインナーシティ再生
水内 俊雄
都市史における脆弱性 ―「危険社会」からみえてくるもの
大田 省一
東日本大震災の広域的影響と大都市の脆弱性 発電所被災がもたらす電力危機と波及的被害
石倉 智樹
計画停電が首都圏鉄道輸送サービスに及ぼした影響
福田 大輔
フエ ~水と生きる都市の脆弱性と頑健性~
福士 謙介
国境の島,対馬をめぐって
樋口 嘉章
[座談会]東日本大震災にみる都市と地域システムの脆弱性と頑健性
室崎 益輝・横張 真・家田 仁
新しい駅開発への取り組み ~JR博多シティ~
亀井 尚志・近藤 正
東日本大震災復興構想会議の提言と今後の展開
大西 隆
トランジッション・コンファレンスに見る低炭素都市づくりにおける市民パワー
室田 昌子
トロントの成長管理政策と住宅問題 ─移民と都心のマンション開発─
堀 裕典
集落移転の行方 ─台湾・八八水災の被災地を歩く─
佐藤 宏亮
社団法人日本都市計画学会 第44回 通常総会
日本都市計画学会 学会賞・特別功労表彰・年間優秀論文賞