都市計画に描かれた都市の未来像に近づいていくためには,様々な規模の都市開発プロジェクトが企画,実現され,都市の各種施設が適切に更新されていく必要がある。そして企画された様々なプロジェクトが実現に至るには,収益からの投資の回収等が可能であることを見込んだ出資者から,建築等の整備に必要な資金が十分に供給されることが不可欠である。
近年,都市開発プロジェクトについての資金調達(ファイナンス)の手法は多様化しており,選択肢は拡大していると言える。しかしその一方で,プロジェクトを実現させるためには,適切な資金調達手法を選び取って組み合わせ,必要な公共的機能や収益等が確保されることをそれぞれの手法の出資者に納得させて,必要な資金量を確保しなければならない。
公民の連携するプロジェクトにおいても,地方公共団体等の地元密着型の組織に経営感覚や事業に関する専門性を持って様々な事態に柔軟に対処できる人材を確保する必要性が指摘されている。そのような指摘を謙虚に受け止め,必要な対応を進めなければ,資金調達手法が多様化してはいても,それらを活用した都市開発プロジェクトの実現は期待できない。
本特集においては,少額の側では建物の一部分をリノベーションして行う事業のレベルから,大規模な側ではインフラと一体的に整備される大型の都市開発プロジェクトまで,様々な事業規模の資金調達について概観する。都市における様々なプロジェクトの資金的な構造を把握することで,その都市に必要とされる,より持続性の高いプロジェクト(施設の運用機関を通じて収入源やその運営主体が同一である必要は無い)とは何かを考える一助としていただきたい。
(編集担当:大島 英司)
アレッポの地籍図
松原 康介
【都市開発制度と資金】
都市開発手法の歩み ―制度と資金
岸井 隆幸
不動産資金調達の概況 ―都市の規模,物件の特性等から見た資金調達手法の特徴
価値総合研究所
[インタビュー]都市の未来を築くファイナンス
寺澤 則忠
まちづくりのためのファイナンスと政策金融の必要性について
佐々木 晶二
市街地再開発事業における民間活力の活用について
杉田 牧子
近年の都市再開発事業の動向について
永澤 明彦
【インフラの更新・公的不動産の活用】
インフラ老朽化問題とPPPの役割
根本 祐二
老いる都市:都市の老朽化とファイナンス
清水 千弘
インフラにおけるPPP/PFIの取組について ~空港,下水道,有料道路におけるPPP/PFIの取組~
三宅 亮
自治体財政の状況と公共施設再編の取組について ―公会計の観点から見た公的不動産の現状と展望
山本 享兵
渋谷区役所・公会堂建替え事業について 民間のノウハウを最大限に引き出す自由提案による公有不動産活用事例
杉浦 小枝
信用金庫の「街づくり支援」について
髙橋 一朗
不動産証券化の発展とその役割
内藤 伸浩
PREと不動産証券化:所有と経営の分離 ~南青山一丁目団地建替プロジェクト
財間 俊治
【地域再生・エリアマネジメントの取組】
不動産遊休化のメカニズムと地域再生パターン ~北九州市小倉中心市街地をケーススタディとして~
片岡 寛之
住民主体のまちづくりへのクラウドファンディングの活用 ~FAAVO(ファーボ)鳥取「まるにわプロジェクト」より~
大島 英司
「ヨコハマ市民まち普請事業」による拠点整備の事業性評価
卯月 盛夫
日本初・大阪版BIDを活用したグランフロント大阪TMOのエリアマネジメント ~大阪市エリアマネジメント活動促進条例の導入,今後の課題~
廣野 研一
地方創生に向けた日本におけるTIFの可能性について ~地域独自のTIFの導入手法検討~
藏田 幸三
【海外事例】
海外交通・都市開発事業支援機構(JOIN)について
海外交通・都市開発事業支援機構
ミャンマー・ティラワSEZ開発におけるJICAの取組:出資主体に対して,ファイナンス以外のどのような機能を期待するか
石渡 慧一
ニューヨーク都市再生のサクセスストーリー:ハイライン公園における官民連携
鷲岡 恵子
米国のコミュニティ開発法人(CDC: Community Development Corporation)の資金と活動 ―ミシガン州フリント市Salem Housing を事例として
清水 陽子
【編集後記】
大島 英司
集積の経済が有する潜在力を引き出し、生産性を向上させる
荒木 愛美子
熊本市の立地適正化計画の策定にあたり
宮﨑 裕章
都市計画的プロジェクトあれこれ
古屋 秀樹