本特集は,「埼玉」という場所が示す課題を通して,現代社会における都市計画の課題を考えるものである。どうやら「県」単位での特集はこれが始めてということであり,(注:金沢・富山というエリア特集や,大阪・東京の特集は存在する)だとするとなぜ第一番目に取り上げられる県が埼玉なのか,という疑問を持つ方が非常に多いだろう。
その理由としては以下の通りである。
第一に,人口の地域偏在が問題となる現代において,埼玉県はその両極の課題が併存する希有な地域であること。埼玉県内でも南部と秩父地域や北部では全く異なる課題を持ち,これは人口偏在に伴う課題の縮図を示す。第二に,高度経済成長期に急激に人口が増え,なおかつ地形的にもスプロールが起きやすい条件のもとで綿々と続いてきた開発の影響が,今こそ顕在化するタイミングにあること。具体的には,公共施設の再編やニュータウン問題がある。また,今はちょうど人口急増期に埼玉に引っ越してきた人々の子供世代=埼玉を真にふるさととする世代が社会の中軸となる年齢となっている。第三に,市の数が全国で最も多い中で,隣接する各基礎自治体がそれぞれの戦略を競っていること。そのような状況から,都市戦略の効果を高い精度で比較することが可能である。
上記のような理由から,都市問題の縮図とも言える状況を抱える「埼玉」を取り上げることで,現代における都市問題を考えることが本特集の目的である。埼玉県は極めて「普通」そうに見える(本当はそうではないのだが)からこそ,取り上げて議論し,共有すべき場所であるとのご理解の上で,本特集をお読みいただきたい。
(編集担当:内田 奈芳美,村山 顕人)
大規模住宅団地が立地する埼玉県東部の埋没谷上の元低湿地
霜田 亮祐
【巻頭言】
埼玉から都市を考えてみた
久保田 尚
【埼玉の成り立ちを理解する】
埼玉県における都市整備事業史 ―埼玉県の発展を支えてきた都市整備事業の概要と今後のあり方
川﨑 周太郎
1960年代から1980年代の埼玉県における住宅地開発と都市政策度
桑田 仁
【埼玉の現状を俯瞰する】
埼玉県の経済及び産業構造の特質
松本 博之
隠れた観光資源 ―まちかどのモダンたてものを訪ねて
若林 祥文
ランドスケープ視点から埼玉の緑を読み解く
栗田 英治・寺田 徹
圏央道IC+市街化区域編入,地区計画,景観計画による誘導 ―埼玉県田園都市産業ゾーンの土地利用調整の仕組と成果
古里 実
多様な地域性と埼玉の交通 ―交通の概況と新たな取り組み
小嶋 文
時代の潮流を見据えた埼玉の都市計画 ―「みどり輝く 生きがい創造都市~暮らし続けるふるさと埼玉~」をめざして
埼玉県都市整備部都市計画課
圏央道沿線「変動通勤圏」における住宅地ストック再生をめざして ―埼玉における鉄道通勤圏の縮小と計画住宅地の経営
藤村 龍至
【特徴的なエリアを分析する:成長する埼玉と転機を迎える埼玉】
歴史都市川越のあゆみ ―都市計画課題を通して
荒牧 澄多
市民が発信する普段着の観光地づくり ―NPOちちぶまちづくり工房18 年間の観光まちづくり活動を振り返る
市川 均
大宮・浦和:さいたま市の二都物語
内田 奈芳美
日高市こま武蔵台のいま:かつての通勤限界の住宅地
樋野 公宏
深谷市の街なか再生と都市構造 ―東京都心通勤圏外の「埼玉の地方都市」の苦闘
村山 顕人
さいたま市美園地区における新市街地開発の現状と課題 ―アーバンデザインセンターを核とした取組みの紹介を通じて
岡本 祐輝
水とともに暮らす「親水文化創造都市」越谷レイクタウンの街づくり
山本 直
【新しい動きを捉える】
さいたまトリエンナーレ2016:生活都市で試みられる「柔らかな都市計画(ソフト・アーバニズム)」としての国際芸術祭
三浦 匡史
ジョンソンタウンの再生プロジェクト:米軍ハウスと創造的なコミュニティ,新たなライフスタイルがつくる景観
渡辺 治
飯能市と北欧のつながり
新井 洋一郎
埼玉県郊外住宅地における子育て支援:NPO カローレによるあらたな試み
浅見 要
【鼎談】
団塊ジュニア世代が見る埼玉
藤村 龍至×村山 顕人×内田 奈芳美
【埼玉県の基礎情報】
【編集後記】
内田 奈芳美・村山 顕人
持続可能な開発目標(SDGs)への地域的アプローチ ―OECD による自治体支援プロジェクトの紹介
松本 忠
大阪へ来たってや! ―①変貌する大阪をご覧ください
澤木 昌典
GISで見据える都市の高密化 ―ニカラグア国マナグア市の土地利用計画
小笠原 未歩子