刊行

都市計画348号
都市マスタープランは進化・深化したか?

 都市計画マスタープランを特集するのは,1999 年の219 号以来,実に20 年ぶりである。当時は,市民・住民のリスペクトを集めて,市民参加にとどまらず,市民版マスタープランなども登場した。優秀な官僚主導の都市像・地域像にたいして,市民・住民が将来ビジョンを描き出すことが可能となった。都市計画マスタープラン策定の背後では,NPO 法の成立,地方分権一括法,自治基本条例といった下からの改革が進められていた。みなで将来像を描き,これを計画として,事業・規制の根拠とする。我が国で長く待たれた計画技術の本格的制度化であり,都市計画マスタープランへの強い期待が論じられた。

 2000 年代にはいると,人口減少,経済の低迷,終身雇用の終焉,少子化・高齢化といった,都市計画を支える社会構造が大きく変化した。成長時代から成熟時代への過渡期であり,まず市民・住民が自分たちの暮らしを描きにくい時代となった。同時に,毎年のように自然災害など,様々なリスクが都市を襲い,その都度喫緊の対応が求められた。また地方創生や地域包括ケアなど,法定都市計画とは別の領域で,望ましい都市空間の形を独自の予算をもって実現しようとする動きも登場した。この間,都市計画マスタープランに関する法制度に大きな変化はなかったが,都市再生特別措置法により規制緩和や立地適正化計画が進められた。成長期でないからこそ,成長につながる論点には,機敏な対応が求められる。マスタープランの位置づけは,相対的に変化していった。

 本号では,都市計画マスタープランの意義と必要性をあらためて整理し,望ましい都市像をどのように描いてきたか・実現してきたかを振り返り,計画技術においてどのような進化・深化があったかを確認する。次世代にむけて,現代的な都市計画マスタープランの在り方について再考することが狙いである。 

(編集担当:後藤 純・村山 顕人)

目次

地図の中の風景

人口減少都市の将来像
 矢吹 剣一


支部トピックス


【都市計画マスタープランの意義と必要性】

多様性の批判的活用─都市社会学者から都市計画家への提案
 中筋 直哉

市町村総合計画における都市マスタープランの位置・役割─中間課題計画としての地域福祉計画を媒介に
 久保 眞人・大矢野 修

法定「都市計画マスタープラン」の意義と必要性と今後
 岸井 隆幸

都市計画マスタープランの発生・展開・展望─都市の概略的空間構成を構想するプランの意義
 大方 潤一郎

【望ましい都市像の模索】

都市マスタープランの能動的活用から見えるもの─「静的」土地利用規制と「動的」まちづくりの連携的取り組み
 松本 昭

住民主体のまちづくり事業と都市計画マスタープランとの関係─2 つの支援制度からの考察
 後藤 智香子

市民版マスタープランが描き,目指したもの─市民版マスタープランの成果,課題,展望
 須永 和久・佐谷 和江

【計画策定技法の進化】

都市マスタープランを支える計画策定技法─約30 年間の市町村マスタープラン策定を振り返る
 村山 顕人

市町村都市計画マスタープラン策定ガイドラインの今─3 種類のガイドラインのレビュー
 今本 健太郎・村山 顕人

「現状分析・将来予測」の進化は都市計画に何をもたらしたか?
 溝口 秀勝・石川 岳男

都市マスタープランの空間計画の変化と進化
 高鍋 剛

都市マスタープラン等における市民参加のこれから─5 つのミスマッチの解消をめざす実践から
 安富 啓・野渕 幹生・千葉 晋也

【描き出した都市像を実現するプログラム】

都市計画マスタープラン制度は進化・深化したか?
 川上 光彦

都市計画マスタープランの課題と総合型まちづくり条例─まちづくり条例の計画実現プログラムとしての可能性
 内海 麻利

渋谷区まちづくりマスタープランと渋谷駅周辺の再開発プロジェクト
 卯月 盛夫

政策調整からみた都市計画マスタープラン
 大橋 洋一

【座談会】

マスターなプランからジェネレートな(生成力のある)プランへ
 芝田 昌明×辻野 真貴子×前川 裕介×村山 顕人

【編集後記】
 後藤 純・村山 顕人


まちづくりマインドを育む

こどもの成育環境・まちづくり・教育
 仙田 満

「まち保育」の実践を通じたまちづくりマインドの育み─まちで育てることはまちが育つこと
 三輪 律江


コロナ禍は都市と都市計画をどのように変えるのか?

コロナ禍が引き起こす空間再編にみる「資本主義の新しい形」
 諸富 徹


書籍探訪・新刊レビュー|企画調査委員会


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