人口構造の変化や情報技術の急速な発達，気候変動等を背景として，都市計画のあり方は変容を迫られている。20 世紀を顧みると，都市計画の理論と技法は主に，拡大を続ける都市において増加する人口を収容する住宅地を開発し，工業や商業をはじめとする諸「機能」を住宅地との適切な関係性のもとに配置する，いわば機械のデザインのような機能主義に基づき発展した。これに対し，20 世紀後半になると，近代都市計画が人間を疎外しているとの反省からヒューマンスケールな都市空間や，建築物とアクティビティの多様性を重視する思想が生まれ，ニューアーバニズムなどの都市デザイン運動へと受け継がれていった。市街地における公共空間の再生は「『空間』を『場所』に作り変える」営為として語られ，その方法論は全世界的に展開された。日本もまた例外ではなく，公共空間を対象とした様々な取り組みが実践されている。
現在の日本の都市計画における「場所」への着目は，道路や水辺といった公共空間の利活用を推進するための制度の導入を軸としたプレイスメイキングに集約されつつあるが，都市計画が視野に入れるべき「場所」はもっと広範な対象と内容を持つ概念ではないだろうか。そして，「機能」から「価値」へと理論的・技法的転換が求められているのではないか。こうした問いを出発点として，本特集では地理学や心理学，社会学等の分野で発展した場所の理論に改めて目を向ける。人間が空間に意味や価値を見出すプロセス，あるいは地域に変化をもたらす起点としての場所の重要性を理解し，「場所に基づく都市計画」の時代を展望したい。
（編集担当：井上 拓央・小泉 秀樹）
デジタル時代の身近な市民協働
関本 義秀
【解題】
機能のプランニングから価値のプランニングへ─近代都市計画の機能主義的文脈
小泉 秀樹・井上 拓央
【第1部：場所の理論】
場所とは何か？─場所に関する理論の系譜
井上 拓央・小泉 秀樹
地域のなかの場所の価値と計画─環境－こと－解釈の関係を手がかりとした「ことづくり」へ
山口 敬太
環境心理学の視点からみる場所の価値と都市計画
城月 雅大
空間の変動と場所の生成─社会学の視点から見る空間，場所，計画
若林 幹夫
［インタビュー］ 都市計画は場所とどう向き合うべきか─人文地理学・批判的都市理論との関係を踏まえて
ティム・クレスウェル
場所論と都市計画を架橋する─人間存在と都市を結び付ける第三項としての「場所」
吉江 俊
【第2部：場づくりの実践】
プレイスメイキングの理論と実践の系譜
園田 聡
場づくりとしての「地域共生のいえ」
後藤 智香子
駄菓子屋併設デザイン事務所「ヤギサワベース」─「地元ぐらし型ビジネス」で場づくりを持続可能にする
安富 啓・佐藤 将之・馬場 義徳
プレイスメイキングの地平に世界平和が見えるか
田中 元子
プレイスとしてのコミュニティガーデン─様々な人が地域社会と繋がれる場
新保 奈穂美
居心地の良い空間づくりとプレイス・ゲーム
田中 良輔
【第3部：場所に基づく都市計画の構想】
場所の価値の継承を担う地域におけるパートナーシップの形成
─一般社団法人ドット道東によるアンオフィシャルガイドブック及びビジョンブック作成の取組から
安富 啓・井上 拓央
場所の価値を明らかにするプロセスを通したまちづくり構想の策定
─協働まちづくりの手引書としての「国立市富士見台地域重点まちづくり構想」
施 裕二・中道 洋平・若島 慎兵・牟禮 菜子
「デジタル化の急速な進展やニューノーマルに対応した都市政策のあり方検討会」中間とりまとめ（概要）
─既存ストックの最大限の利活用による人間中心・市民目線，機動的なまちづくりへ
国土交通省 都市局 都市政策課
オバマ政権下の場所に基づく都市政策の展開
─持続可能なコミュニティのためのパートナーシップに着目して
黒瀬 武史
米国の人口減少都市におけるプレイス・ベースドなコミュニティ再生
─ミシガン州フリント市とオハイオ州ヤングスタウン市を事例として
矢吹 剣一
英国の政策における「プレイス」の認識と制度化への挑戦
─都市・地域再生に関わる政策の中の登場に着目して
似内 遼一
人間のための場所：メルボルン市の戦略から実装まで
小川 愛・福岡 孝則
都市計画と場所の思想─場所は都市計画批判であり続けられるか
中島 直人
場づくりを基軸とする地域づくりのプロセスデザイン
吉村 輝彦
［座談会］場所に基づく都市計画への展望
吉村 輝彦×中島 直人×黒瀬 武史×泉山 塁威
【編集後記】
井上 拓央・小泉 秀樹
座談会：まちづくりへの「関わりしろ」を広げる─まちづくりマインドを育むための支援体制づくり
柴田 久×真田 純子×前川 裕介
コロナ禍を通じて見る都市における情報技術の可能性
荒川 豊