コロナ禍で脚光を浴びた「15分都市圏/20分都市圏」概念の要件を満たす,職場や多様なアメニティに近接する生活圏として都心環境に改めて注目が集まっている。同概念では手頃な住宅,いわゆるアフォーダブル住宅の供給も重要な柱として位置付けられている。先進地の政策では,不確実性が高まる社会状況を背景に,住宅および生活圏内の都市サービスのアフォーダビリティから恩恵を受ける層の裾野を広げている。例えば,Livable Cityを謳うメルボルンで,コロナ禍による都心物件の需要変動への対応という目的も併せ持ちつつ,学生,アーティスト,保育士等のまちの活力を支えていく市民の住まいに関するアフォーダビリティ戦略が立案された。あるいは,米国ではGAFAMのようなグローバル企業の関与が,市民に手の届く価格帯と住まいの質を両立するベンチャー起業を誘発するなど,建築・建設技術の革新も期待される。
日本に目を向けると,アフォーダブル住宅には低所得者向けの供給イメージが一般に定着し,民間事業者の関与の動機付けが乏しいままである。そうしているうちにも,住宅市場のグローバル化は着実に進み,国際的投資動向によっては,中流所得層であっても優良な住宅取得が阻まれる状況である。住まい続けられるまちづくりの観点から,民間事業者も巻き込んで議論すべき喫緊の課題である。
そこで本特集は,我が国における都市空間のアフォーダビリティを問うことを目的とし,住宅分野から都市サービスにまで広がりつつある同概念の対象領域を再定義する。そのなかで,空き家のリノベーション,居住支援協議会等,実質的にアフォーダビリティを高める役割を担い得る,国内の既存事業の意義も再評価する。
(編集担当:三浦 詩乃・北崎 朋希・野澤 千絵)
15分都市から考える移動のアフォーダビリティ
谷口 守
【総論・問題提起】
特集の編集にあたって
三浦 詩乃・北崎 朋希・野澤 千絵
スーパースター都市のアフォーダビリティ─Before & After COVID-19 における変容
矢作 弘
アジア・メガシティのアフォーダビリティとSustainable Urban Solution Framework(SURF)構築の必要性
城所 哲夫・志摩 憲寿
東京のアフォーダブル住宅問題:過去・現在・未来
高見沢 実
【海外都市開発プロジェクトにみるアフォーダビリティ概念の広がり】
英国におけるアフォーダブル住宅・ワークスペースの展開─計画義務の活用による都市空間のアフォーダビリティの確保
北崎 朋希
ドイツの都市計画制度に基づく「社会的に公正な土地利用」の実践─ミュンヒェン市,ベルリン市を事例に
太田 尚孝
パンデミックを経た現在のアフォーダビリティ議論─マンハッタン・SOHOでのせめぎ合い
内田 奈芳美
GAFAMの「罪滅ぼし」としてのアフォーダブル住宅供給─5社が拠出する計70億ドル超の使い道
木村 駿
【住宅のアフォーダビリティ】
容易に解決できない社会システムによる危機:米国の住宅のアフォーダビリティ
アラン・マラック
アメリカにおけるアフォーダブル住宅に対する支援政策─居住保障を実現する住宅・コミュニティ開発のポリシー・ミックス
岡田 徹太郎
コミュニティ開発法人(CDCs)とアフォーダブル住宅
宗野 隆俊
ハウジングアフォーダビリティ問題の世界的動向
大井 達雄
新築住宅依存からの転換と住宅アフォーダビリティ
砂原 庸介
【都市生活インフラと文化をとりまくアフォーダビリティ】
X min City 政策を契機としたアフォーダビリティ概念の広がり
三浦 詩乃
欧州における近接性(プロキシミティ)の概念─スペイン・バルセロナ市「スーパーブロック」計画からの考察
鷲尾 和彦
アフォーダブルな交通とモビリティに向けた統合的政策
柴山 多佳児
新興国・途上国におけるアフォーダブルな移動手段─アクセシビリティとサステイナビリティの観点も含めて
岡村 敏之
川崎市における安心して暮らせる「住まい方」の実現─居住支援協議会の取組を通じて
手塚 翔太・荻野 隆弘
グローバル都市におけるアフォーダブルなものづくりの場─ニューヨーク市の事例
諸隈 紅花
オンボロの空き家で焦げたカレーをつくること─面倒な「まちづくり」を人々にアフォードするものについて
大谷 悠
【座談会】
都市空間のアフォーダビリティを問う
清水 千弘×谷口 守×牧野 慎太朗×矢作 弘
【参考資料】
各国のアフォーダビリティ政策の変遷
北崎 朋希・三浦 詩乃
【編集後記】
三浦 詩乃・北崎 朋希・野澤 千絵
公共空間活用を起点としたエリア再生への取り組み
中村 英人
ルンビニ(ネパール連邦民主共和国)
森 朋子