都市計画やまちづくりに取り組むときに共通して問題になるのは,そもそも都市や地域をどのように把握するのか,という問題だ。情報技術が発達するいっぽうで,地域を実際に歩き,観察し,人から話を聴くフィールドワークを行うことの有効性は誰もが知るところだろう。
本特集はあえて「アナログ・サーヴェイ」を主題に掲げる。そして,地域に入り込んで行うサーヴェイは,都市計画に限ったものではなく,社会学,民俗学,歴史学,地理学,人類学をはじめ多くの分野が取り組んできたことであり,それぞれ立場は異なりつつも,どこかつながった理論を構築してきたことに注目する。本特集ではこうした分野を横断しながら,情報技術が発達し高度な都市解析が可能になった現代で,なお「アナログ」なフィールド・サーヴェイが重要な意味をもつとしたらそれは何か,また計画に対してアナログ・サーヴェイが提供してくれる知見は何かを考える機会にしたい。
意外なことに,フィールド・サーヴェイが本誌『都市計画』の特集テーマになったことはなかった。科学的な解析手法を追求する「量的把握」に対して,フィールドワークが行う「質的把握」は暗黙知を多分に含む側面があり,取り上げられることが少なかったといえる。いま改めて,地域に物理的に身を置く「アナログ・サーヴェイ」の可能性を考え,様々な分野の知の源泉としてあり続けてきた「フィールド」の意義を浮かび上がらせたい。
(特集担当:吉江 俊)
都市近郊湿地の風景の履歴
小澤 広直
【アナログ・サーヴェイの理論と実践 サーヴェイを体系化してきた著者たちの視点】
日本における「フィールドワーク」の萌芽,普及,成熟─「アナログ・サーヴェイ」をたどる系譜・試論
吉江 俊
「現場に立つ・現場で考える」ことの意義─『まちの見方・調べ方 地域づくりのための調査法入門』で考えたこと
西村 幸夫
フィールドワークの実践─建築デザインの変革をめざして
和田 浩一・佐藤 将之
デジタルなレイヤーの向こうに現れるアナログな都市─「都市/建築フィールドワークメソッド」を超えて
田島 則行
アナログ・サーヴェイの未来─デジタル時代のフィールドワークはどこに向かうか?
清水 郁郎
【アナログ・サーヴェイの多面体 異なる分野で,フィールドはどのようにまなざされてきたか?】
[インタビュー]「地上学」とフィールドワーク─都市・地形の広域的構造と目の前の風景をつなぐ
石川 初
フードスケープのフィールドワーク
正田 智樹
アナログ・サーヴェイによる歴史のフィールド─建築史と都市史におけるアナログとデジタル
小岩 正樹
暮らしを調べるということ,調べながら暮らすということ─民俗学的な調査と私の模索
山川 志典
社会学はなぜフィールドワークをするのか
平井 太郎
身体的追体験をする都市論のフィールドワーク─グラフィティ・ひとり空間・群衆空間
南後 由和
【現代のアナログ・サーヴェイ アナログ・サーヴェイの知とはなにか?】
[座談会]〈アーバニズム〉を捉えるふたつのアナログ・サーヴェイ─「創発的アーバニズム」と「ポップアーバニズム」をめぐって
ホルヘ・アルマザン×中村 航
生活者としての実感を語り合い関係性を活性化する手法の探求
山下 裕子
生き続ける都市のための実践的都市史研究─建築類型学と都市組織,そしてテリトーリオから
稲益 祐太
語られるみずみずしい土地の物語から,おおきなまちの未来を描く
冨永 美保
中動態としてのフィールドワークにおける「新しい実在論」─現代世界における〈共生可能性〉をもとめて
遠藤 英樹
いま,なぜ,オンラインフィールドワークなのか─オンラインとオフラインの比較から
渡部 瑞希
[座談会]アナログ・サーヴェイの知─地域と伴走し,部分と全体を横断すること
伊藤 香織×中島 弘貴×吉江 俊
【編集後記】
吉江 俊
健康都市・空間デザインとしてのウォーカブルなまちづくり
花里 真道
「2050年都市ビジョン提言書 ver2.0~2050年の社会像・都市像と都市・地域計画領域におけるアプローチ~」のとりまとめについて
松谷 春敏・松下 佳広
アーバイン(アメリカ・カリフォルニア州)
大森 宣暁
第13回 定時総会(社員総会)議事録
理事会
学会賞・特別功労表彰・年間優秀論文賞
表彰委員会・学術委員会