刊行

都市計画370号
〈アナログ・サーヴェイ〉の知―現代におけるフィールド調査の意義を問う

 都市計画やまちづくりに取り組むときに共通して問題になるのは,そもそも都市や地域をどのように把握するのか,という問題だ。情報技術が発達するいっぽうで,地域を実際に歩き,観察し,人から話を聴くフィールドワークを行うことの有効性は誰もが知るところだろう。

 本特集はあえて「アナログ・サーヴェイ」を主題に掲げる。そして,地域に入り込んで行うサーヴェイは,都市計画に限ったものではなく,社会学,民俗学,歴史学,地理学,人類学をはじめ多くの分野が取り組んできたことであり,それぞれ立場は異なりつつも,どこかつながった理論を構築してきたことに注目する。本特集ではこうした分野を横断しながら,情報技術が発達し高度な都市解析が可能になった現代で,なお「アナログ」なフィールド・サーヴェイが重要な意味をもつとしたらそれは何か,また計画に対してアナログ・サーヴェイが提供してくれる知見は何かを考える機会にしたい。

 意外なことに,フィールド・サーヴェイが本誌『都市計画』の特集テーマになったことはなかった。科学的な解析手法を追求する「量的把握」に対して,フィールドワークが行う「質的把握」は暗黙知を多分に含む側面があり,取り上げられることが少なかったといえる。いま改めて,地域に物理的に身を置く「アナログ・サーヴェイ」の可能性を考え,様々な分野の知の源泉としてあり続けてきた「フィールド」の意義を浮かび上がらせたい。

(特集担当:吉江 俊)

目次

地図の中の風景

都市近郊湿地の風景の履歴
 小澤 広直


支部トピックス


特集:〈アナログ・サーヴェイ〉の知―現代におけるフィールド調査の意義を問う

【アナログ・サーヴェイの理論と実践 サーヴェイを体系化してきた著者たちの視点】

日本における「フィールドワーク」の萌芽,普及,成熟─「アナログ・サーヴェイ」をたどる系譜・試論
 吉江 俊

「現場に立つ・現場で考える」ことの意義─『まちの見方・調べ方 地域づくりのための調査法入門』で考えたこと
 西村 幸夫

フィールドワークの実践─建築デザインの変革をめざして
 和田 浩一・佐藤 将之

デジタルなレイヤーの向こうに現れるアナログな都市─「都市/建築フィールドワークメソッド」を超えて
 田島 則行

アナログ・サーヴェイの未来─デジタル時代のフィールドワークはどこに向かうか?
 清水 郁郎

【アナログ・サーヴェイの多面体 異なる分野で,フィールドはどのようにまなざされてきたか?】

[インタビュー]「地上学」とフィールドワーク─都市・地形の広域的構造と目の前の風景をつなぐ
 石川 初

フードスケープのフィールドワーク
 正田 智樹

アナログ・サーヴェイによる歴史のフィールド─建築史と都市史におけるアナログとデジタル
 小岩 正樹

暮らしを調べるということ,調べながら暮らすということ─民俗学的な調査と私の模索
 山川 志典

社会学はなぜフィールドワークをするのか
 平井 太郎

身体的追体験をする都市論のフィールドワーク─グラフィティ・ひとり空間・群衆空間
 南後 由和

【現代のアナログ・サーヴェイ アナログ・サーヴェイの知とはなにか?】

[座談会]〈アーバニズム〉を捉えるふたつのアナログ・サーヴェイ─「創発的アーバニズム」と「ポップアーバニズム」をめぐって
 ホルヘ・アルマザン×中村 航

生活者としての実感を語り合い関係性を活性化する手法の探求
 山下 裕子

生き続ける都市のための実践的都市史研究─建築類型学と都市組織,そしてテリトーリオから
 稲益 祐太

語られるみずみずしい土地の物語から,おおきなまちの未来を描く
 冨永 美保

中動態としてのフィールドワークにおける「新しい実在論」─現代世界における〈共生可能性〉をもとめて
 遠藤 英樹

いま,なぜ,オンラインフィールドワークなのか─オンラインとオフラインの比較から
 渡部 瑞希

[座談会]アナログ・サーヴェイの知─地域と伴走し,部分と全体を横断すること
 伊藤 香織×中島 弘貴×吉江 俊

【編集後記】
 吉江 俊


官民連携による公共空間の利活用を通じたウォーカブルなまちづくり

健康都市・空間デザインとしてのウォーカブルなまちづくり
 花里 真道


都市計画トピックス

「2050年都市ビジョン提言書 ver2.0~2050年の社会像・都市像と都市・地域計画領域におけるアプローチ~」のとりまとめについて
 松谷 春敏・松下 佳広


書籍探訪・寄贈図書レビュー|企画調査委員会


わたしとあの街

アーバイン(アメリカ・カリフォルニア州)
 大森 宣暁


報告

第13回 定時総会(社員総会)議事録
 理事会

学会賞・特別功労表彰・年間優秀論文賞
 表彰委員会・学術委員会


学会ニュース