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369号|緊急特集:2024年能登半島地震からの復興に向けて

都市計画2015 令和6年1月1日16時10分に,石川県の能登地方を震源域とする,令和6年能登半島地震が発生した。防災特別委員会では当日のうちに対応について協議を始め,1月6日にタスクフォース(TF)設置むけた準備会を開催,1月12日の常務理事会において防災特別委員会内にTFを設置し中部支部と密接に連携し活動することが確認され,また編集委員会,事業委員会など,各常置委員会でも必要な対応を検討することになった。

 編集委員会ではTFメンバーとも意見交換をはかりながら緊急特集号を組むことを検討したが,現地の具体的な状況を踏まえた論考が集まるのか,特集号の発行時期と原稿執筆時期のずれから,また急速に変化する被災地の状況もあることから,的外れな,もしくはタイミングを逸した論考が多くなるのでは,などの懸念も出された。

 編集委員会としては,現地の論者を複数ピックアップし執筆可能性を確認するとともに,現地に在勤する中部支部会員に執筆可能性と執筆する場合のテーマを問い合わせた。結果的に,被災地の会員や関係者の協力が十分に得られることも確認でき,市古先生,益邑先生の協力もあり,TFメンバーに加えて若手研究者からの寄稿も行われることになり,加えて学会員に広く寄稿を呼びかけることで,十分な内容が確保できたと思う。また,速報性が重要との意見に対応するために,4月下旬から順次学会HPにて寄稿原稿を公開し,それらをまとめ冊子体としての緊急特集号を発行することにした。この点の実現については,学会事務局の大きな貢献があった。

 さて,今回の緊急特集号の企画の趣旨についても簡単に述べておきたい。まずは,当該地震による被災状況,復興にむけた論点,取り組みについて,会員に速報的にかつ幅広く情報を提供し,復興への関心を高め,また継続して持っていただくきっかけとしたかった。従って,通常の企画のように,論点を絞り込み執筆候補者を選定していくというプロセスではなく,むしろ現地からの情報提供や関心の高い研究者からの論点提示を受け取りつつ,構成を事後的に形成するアプローチをとっている。このため,やや発散的な構成となっているが,むしろ多様な論点と課題が提示され,魅力的な誌面となったのではないと期待している。

 そして,やはりこの緊急特集号を貫くテーマは,人口・世帯減少社会における復興,であると考えている。能登地域は,元々高齢化,人口減少が顕著であった地域であり,2001年以降は鉄道網も縮小され,また2007年の震災を経て高齢化,人口・世帯減少への対応を余儀なくされてきた地域であったと思う。そうした中,今回の震災によって,更に多くの物的社会的資本を失ったことで,その復興後のビジョンをどのようなものとして描くのかは,東日本大震災からの復興以上に難しいものとなるかもしれない。この点は,復旧・復興のさまざまな局面と論点,課題を貫くものと想定している。そうした観点から,各論者の論考を見直すことで,これからの日本における復興時のみならず平時の都市計画,まちづくりに必要な視座を得られるかもしれない。こうしたことを期待して緊急特集号を企画した,とも言えるだろうか。

(文:編集委員長 小泉 秀樹)

目次

地図の中の風景

能登半島地震の復興まちづくりをマップ作成で支援する
 荒木 笙子・福田 崚・益邑 明伸


緊急特集:2024年能登半島地震からの復興に向けて

【巻頭言】

2024 年能登半島地震からの復興に向けて─「都市計画」の課題と役割
 川上 光彦

【学会の取り組み・特別委員会の報告】

能登半島地震タスクフォース設置と活動の記録(2024年1月~4月)
 市古 太郎

復興を俯瞰的に考える
 加藤 孝明

能登半島地震からの復興に関する(仮)論点
 姥浦 道生

2024年能登半島地震をどう理解するのか?─阪神・淡路大震災+新潟中越地震+東日本大震災
 牧 紀男

【被災地の現状や復興における論点】

令和6年能登半島地震に係る国土交通省都市局の対応状況(R6.4時点)
 国土交通省都市局都市安全課

令和6年能登半島地震への中部支部の対応
 浅野 純一郎・益尾 孝祐

生業・生活再建によるポスト近代復興の実現─日常のまちの課題解決も含めた創造的復興の推進
 益尾 孝祐

能登半島地震における地震火災と今後の市街地整備への示唆
 廣井 悠

能登地域のおかれた現状と地震後の復興に向けて─能登の復興を支える道路・公共交通の役割
 髙山 純一

未来に向けた生活基盤としての「能登の風景」を考える
 片桐 由希子

能登の里山集落の逞しさと脆さ─ひとりの被災者・住民・建築家からみた2024年能登半島地震の報告
 萩野 紀一郎

令和6年能登半島地震における富山県の被害状況と課題─高岡市吉久・伏木と氷見市北大町・栄町・間島・姿について
 籔谷 祐介

能登半島地震からの復興に向けた,現地からの報告─地元都市計画コンサルタントから見た現状と課題認識
 塩士 圭介・宮下 昌之・眞島 俊光

能登半島地震による富山市内のタワー型機械式立体駐車場の被災事例
 久保田 善明

景観から能登の復興を考える─暮らしの風景に内在する地域性と持続力
 小浦 久子

観光の視点からの復興論─平成19年能登半島地震からの学びと観光の創造的復興に向けて
 佐野 浩祥

『仮設コミュニティ』を基点とした創造的復興─コミュニティデザインと地域包括ケアシステムの連携に着目して
 後藤 純

【過去の災害の経験から】

過疎化・高齢化の進む地域での災害復興のあり方─2004年新潟県中越地震の復興プロセスから考える
 澤田 雅浩

被災地の地元大学は何ができるか? 何をすべきか?
 円山 琢也

災害後のすまいの再建 包括的アプローチへ─公共住宅の役割の再設定
 越山 健治

質の高い復興のために─東日本大震災からの復興での経験から
 平野 勝也

【若手が考える復興論】

広域・国土スケールで考える能登半島の復興
 福田 崚

災害復興から地域の単位を再考できるか?
 中尾 俊介

「半島」の振興と災害がもたらすもの─自律・循環する半島地域の再構想
 萩原 拓也

避難者の生活再建上の課題と支援のあり方─東日本大震災の避難者対応を事例に
 外栁 万里

広域避難者への支援方針の検討─過去の災害の知見から
 須沢 栞

巨大災害後の人口移動と復興マネジメント─東日本大震災後の動的な居住地選択を念頭に
 小関 玲奈

地域コミュニティの離散と人間中心の復興の実現に向けて─避難から仮住まい期に着目して
 佐藤 凌真

生活再建への態度変容を考慮した災害公営住宅の需要予測に向けて
 渡邉 萌

木造仮設住宅の恒久転用と地域の持続─場所の視点から
 野口 雄太

被災中心市街地の合意形成型まちづくりにおける要点─宮城県石巻市中心市街地におけるまちづくり会社の活動を事例に
 苅谷 智大

イタリア災害復興からの学び─論点の再構成と知の共有化に向けて
 益子 智之

復興まちづくりにおける異なる主体間の意思決定の考察─福島県浜通り地域の事例から
 福田 昌代

(事前)防災集団移転の仕組みと参加型計画─フィリピンと日本を比べてみて
 白石 レイ

被災後の住民の移転先・移転元地について考える─東日本大震災後の石巻市における防集事業による移転事例を踏まえた考察
 荒木 笙子

当事者の腑に落ちる理解を可能とする環境移行とは?─東日本大震災におけるコミュニティ移転に関する住民インタビューの経験を通して
 坪内 健

被災後に低密化した市街地における空き地の農的利用─福島県浜通りにおける2事業の比較から
 植田 啓太

令和6年能登半島地震の教訓を今後の復興まちづくりに活かす─「復興を事前に考えること」のアップデートと全国展開に向けて
 小倉 華子

災害前の記憶やその継承に関する論点─東日本大震災被災地での「失われた街」の経験から
 磯村 和樹

ケアする災害復興に向けたモノとの関係性─石川県七尾市中島町での民間災害ボランティア支援を通じて
 土田 亮

「復興まちづくり支援マップ」公開のねらいと可能性
 益邑 明伸・荒木 笙子・福田 崚

【会員寄稿】

"復興困難災害" にどう対処するか─能登まちづくり支援機構の設立を
 広原 盛明

国勢調査ミクロデータに基づく災害リスク地域内の高齢者世帯数推計─被災時の生活再建に関する定量的データの事前整備について
 中野 卓・竹谷 修一

能登半島地震から漁業・漁港・漁村を取り戻す─能登の漁業・漁港・漁村再生の課題と展望
 富田 宏

能登半島地震被災地における医療施設を核とした復興に関する提言─奥能登地域における医療施設と孤立集落発生区域の位置関係に着目して
 福島 麻斗・石原 凌河

復興と地域社会の人口動態および空間変容─東日本大震災および能登半島地震からの復興を考える
 平原 幸輝

【編集後記】
 市古 太郎・益邑 明伸


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