企画調査委員会

Committee

都市計画とは・都市計画の制度体系

第1章 都市計画とは

1-1 都市計画の理念と性格

1-1-1 都市計画の一般的定義

「都市計画」はかつて、最終的な成果物としてのプランおよびプランづくりだったが、今日、プランを実現する諸手法、都市を変えていく行為全体へとシフトしてきた

1-1-2 都市計画の基本的性格とその揺らぎ

都市計画は、都市としての一体性・全体性が求められ、大小さまざまな空間で計画の整合性が保たれる必要がある社会的技術である。常に事前に長期的目標を固定して、徐々に実現を図らざるを得ない。ただし都市計画のこの基本的性格は揺らぎつつある

1-1-3 都市計画と関連領域の関係

都市計画は、土木工学、建築学、造園学という伝統的な工学的技術と、法学、経済学など人文・社会科学に支えられ、固有の技術領域として発展、確立しつつある

1-2 都市計画と法

1-2-1 都市計画と公共的ルール

都市計画は、私権(土地所有権)を制限しなければ目的を果たせない。そのためには、公共的に決定されたルールに厳密に従って運営されなければならない

1-2-2 法定都市計画の役割と限界

法定都市計画は強制力を伴い実効性はあるが最低水準を満たす画一的内容になりがち。市民がイメージする都市計画とのギャップを埋めるのが「都市づくり」「まちづくり」。これらは非法定都市計画だが、人々の「良き志」に根ざして効果を発揮している

1-3 都市計画に関わる主体

1-3-1 行政

都市計画に関わる最大の主体は国、都道府県、市町村などの行政である。地方分権のに伴い、基礎自治体である市町村の都市計画の主体としての役割は大きくなっている

1-3-2 民間

わが国では民間事業者が、都市および都市周辺部に変化をもたらす原動力として都市の建設に大きな役割を果たしてきた。1980年代初頭から民間活力導入の強調により、民間事業者の役割はますます大きくなっている

1-3-3 住民・市民

都市計画にかかわる第3の主体。都市計画の目的が生活の質の向上に変わりつつあり、住民・市民の成熟化した今日、より積極的な住民・市民の参画が前提となりつつある

1-3-4 専門家

専門家には行政/民間/学系の各プランナーがいる。特徴や課題はそれぞれ異なるが知識や人材の交流など、協力しあって都市計画の職能を確立し、社会的に位置づけることが期待される

1-3-5 都市計画とパートナーシップ

都市計画に関与する主体が互いに協力し合って、都市計画の水準を上げていくために行政、民間、住民が相互作用を意識しながら協力関係を作り、専門家がその関係間のバランスを保つ構図が、成熟社会の都市計画の1つの理想的な主体間関係

第2章 都市計画の制度体系

2-1 都市計画法の略史と2000年法改正の趣旨

2-1-1 1968年都市計画制定まで

わが国初めての近代都市計画の法制は、1888年の東京市区改正条例。封建都市江戸を近代都市東京に改造するための最低限の基盤施設建設を定め、東京のみに適用された
1918年には、東京市区改正条例を大阪、京都、横浜、神戸、名古屋に準用する法律が制定され、6大都市の近代都市整備の仕組みが整えられた
明治維新以降の近代化により全国の都市が急速に拡張、計画的な市街地形成の必要性が高まり、1919年都市計画法および市街地建築物法(旧法)が制定された(全国レベルでの近代都市計画法制が整った)旧法は、①都市計画のすべてを国が決定し、②すべての都市に一律の基準を採用した中央集権的な都市計画・建築規制制度だった。また、③都市が拡張する時代に「都市計画区域」という概念を導入し、計画的な市街地形成の必要性が高い、市と隣接する町村を一体的に計画する区域を「実態上の都市」として定義した。④都市計画の手続として「都市計画決定」を導入、私権である財産権に制約を加えることを可能にした。⑤当時の都市計画の先端技術であるゾーニング(地域制)を制度化した。
1919年法制を評価する際、(1) 地域の特徴を無視した国家一律の都市計画の仕組みで、(2) マスタープラン概念が欠如していた、(3) 都市計画と建築規制が法制度上分離していたなど、現在の都市計画制度の課題の発端がここにあることも忘れてはならない

2-1-2 1968年都市計画法

戦後、飛躍的な経済成長を経験したわが国は、同時に、大都市の住宅問題、郊外への無秩序な市街地の拡大などの都市問題を短期間に経験した。戦前の1919年法制はこれに十分対応できず、1968年に新たな都市計画法(新法)に生まれ変わった
1968年都市計画法では、①都市計画の決定権限が国から地方公共団体へと委譲され、②都市計画決定手続きに正式に住民参加が導入された。また、秩序だった都市の拡張を担保するために、③都市計画区域を、市街化区域と市街化調整区域に区域区分する「線引き制度」および④それと連動する「開発許可制度」が導入された。さらに詳細な土地利用規制を行うために、⑤市街化区域に用途地域指定を義務付け、用途地域を4区分から8区分へと詳細化した。
1968年新法で都市計画制度の基本は整ったが、対応しきれない都市問題も残った

2-1-3 その後の主な改正

1968年制定以降、都市計画法(新法)には数度にわたる主要な改正が加えられている
(1)1980年改正
1980年改正で、都市計画法が規定する都市レベルの計画と、建築基準法を前提とする敷地レベルの計画のギャップを埋める「地区計画制度」が創設された。当初は地区を限って、従来の規制を強化する性格をもっていた
(2)1988年改正
1988年改正により、公共・公益的性格を有する施設の提供と引き換えに規制緩和する「再開発地区計画」が新たに誕生した。(1) 公共施設整備が行われる場合に認められる「条件付き」、(2) 開発者側からの発意を公的な規制の変更要件とする「申請型」、(3) 開発の全体コンセプトを維持しつつ計画の熟度に応じて柔軟に「成長する」点で 従来の都市計画の概念を大きく変え、「ポストモダンの都市計画」とも呼ばれる※
 ※五十嵐(1990)
再開発地区計画に端を発した「緩和型」地区計画は、住宅地高度利用地区計画(1990)や用途別容積型(1990)、容積適正配分型(1992)、誘導容積型(1992)、街並み誘導型(1994)へと拡充されていく
(3)1992年改正
1980年代後半の景気の急激な拡大等に伴い、各都市の地価に対する動向が社会問題化した。1992年改正は(1) 住民に都市計画の合理性を説明する「市町村の都市計画に関する基本方針(市町村の都市計画マスタープラン)」を創設、(2) 大都市都心の商業地の地価上昇が住宅地に拡大した経緯から、住居系用途地域の規定が厳密になり、用途地域は12に細分化された

2-1-4 地方分権に関わる改正(1998年・1999年)

1995年の地方分権推進法に基づき1999年に地方分権一括法が制定され、2000年から新たな分権体制下での都市計画が始まった。分権一括法に先行して都市計画法および施行令改正は1988年に地方分権に関わる改正を行っている
分権化に伴う都市計画の主な変更は、(1) 上位の公共団体の役割が「承認」「認可」などから「同意を要する協議」に変更、(2) 新たに市町村の都市計画審議会が法定化され、市町村が都道府県の承認なしに都市計画決定を行えるようになった。また広域的・根幹的な都市計画を除き、(3) 都市計画の決定権が、都道府県から政令指定都市および市町村に委譲され、(4) 法律および政令で種類が特定されていた特別用途地区を市町村条例で決定できるようになった

2-1-5 2000年都市計画法改正の趣旨と背景

2000年の都市計画改正に先立って都市計画中央審議会は、わが国は急速な「都市化の時代」から安定・成熟した「都市型の時代」へ移行したとの答申を示した。2000年の改正では、主に(1) 市街地縁辺部の土地利用規制、(2) 既成市街地内の土地利用規制、(3) 都市計画決定手続きの、それぞれが合理化された
(1)市街地縁辺部の土地利用規制の合理化
準都市計画区域が創設され、都市計画区域外の1ha以上の大規模な開発への開発許可の必要となるなど、都市計画区域外に、都市計画的な視点から規制が導入された
市街化区域、市街化調整区域の線引きを行うかは、都道府県が決定できるようになり、これに伴って、すべての都市計画区域で「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」が義務化された
また「非線引き白地区域」※での地区計画が決定可能となり、同時に特定用途のみを制限する新たな地域地区として、特定用途制限区域を指定することが可能となった。同時に建築基準法が改正され、非線引き白地区域の建築物の形態規制メニューが詳細化され、非線引き白地区域の土地利用規制が充実した
※線引きされていない都市計画区域で、用途地域の未指定の
(2)既成市街地内の土地利用規制の合理化
①地区計画の1つとして、商業地域にのみ指定可能で、区域内での指定容積の移転が可能となる「特例容積率適用区域」が創設された。特定の建築行為を前提とせずに、容積の移転を事前確定しなくてよいなど、既存の制度をさらに進めたものと理解できる
②従来、道路などの都市施設が決定されると、都市計画制度は、上空、地下両方向に無限に適用されていたが、立体方向に限定する立体都市計画制度が導入された。道路・河川・公園等の都市施設を整備する際に、効果を発揮すると考えられる
(3)都市計画決定手続の合理化
都市計画決定手続の合理化により、市町村が条例で手続を定めれば住民等が地区計画の案の策定を申し出ることが可能となった

2-1-6 都市計画制度の潮流

(1)分権の進展
旧法で国が独占していた都市計画の決定権限は、地方分権に伴い、住民に最も身近な基礎自治体である市町村へ移行した。この分権の潮流は不可逆であろう
(2)参加の充実
分権同様、参加も充実してきた。1968年新法で初めて都市計画決定に住民参加が導入されて以降、1980年に創設された地区計画制度、1992年の市町村の都市計画マスタープランなどでは住民の参加が一層強調された。価値観が多様化するなか、多様な主体間の合意形成は重要さを増す一方であり、行政のアカウンタビリティ強化と並行して、行政と住民の双方向コミュニケーションなど参加手法をより充実させていく必要がある
(3)地区レベルの計画の充実 
住民の参加の充実と連動して、生活に身近な都市空間整備への要望が高まり、それに対応する地区レベルの計画制度が充実してきた。1980年に創設された地区計画制度は、その後様々なバリエーションが追加され、今や都市計画の中心的手法にまで成長した
地区レベルの計画が充実するほど、地区の計画と都市全体の計画の整合性を図る手段が重要になり、このことも次のマスタープランの強化へ繋がる理由となった
(4)マスタープランの強化
旧法には、マスタープランの概念がなかった。1968年新法では、線引きされた区域にのみ「整備、開発又は保全の方針」として導入されたが、本来マスタープランが有すべき都市計画の合理性を説明するという役割は乏しかった。1992年改正により、市町村の都市計画に関する基本的な方針(市町村マスタープラン)が規定され、2000年改正で全ての都市計画区域においてマスタープランが創設され、マスタープランは都市計画の制度としてようやく充実した
(5)土地利用規制手法の多様化
土地利用規制も多様化した。特定の行為を禁止する「規制」的手法だけでなく、土地利用主体にインセンティブを与え、望ましい土地利用を「誘導」する手法も数多く開発されている
しかしわが国の土地利用規制は①都市計画法と建築基準法の二本立てで、時代の要請に合わせて新制度を追加してきたため、全体の体系が複雑でわかりにくく、②土地利用規制手法は多様化したものの大部分は規制緩和の結果生じたもので、その根幹には強固な土地所有権概念と、成長志向の経済システムからの要請など課題も抱えている

2-2 都市計画と上位計画

都市計画が対象とする「都市」の大きさは本来連続的で、都市を空間小単位へと分割することも、都市を包含するより大きな空間を1単位と考えることもできる。これら小さな空間単位から大きな空間単位まで、計画の整合性が保たれている必要がある
都市計画の上位計画には、(1) 国土計画又は地方計画に関する法律に基づく計画、(2) 都市施設に関する国の計画、(3) 公害防止計画と(4) 市町村の基本構想がある。これらの上位計画と都市計画の関係は複雑で、地方分権の時代を迎え変化していくと思われる

2-3 都市計画の体系

2-3-1 都市計画の適用範囲

都市計画の「都市」の物理的範囲は「都市計画区域」として定められ、都市計画法に基づく都市計画は、基本的に都市計画区域内でのみ可能である。わが国では、都市、農村、森林ごとに個別に、基本的な土地利用に対応する法・計画体系がある

2-3-2 都市計画の内容構成

都市計画は現実の都市空間を操作し目標とする都市空間を実現する技術体系である。
都市計画の論理的構成は、目標とする都市空間像の設定[計画]と、その実現のための手法体系の2段階。手法体系はさらに、適合しない行為を禁止する[規制的手法]と、計画内容そのものを直接創り出していく[事業的手法]に分けられる。
[規制]と[事業]それぞれのメリットを生かし、規制の緩和などの恩恵を与えて[計画]を実現する[誘導型手法]が数多く考案されている
「都市」の内容的構成は、都市の機能を運営維持するのに必要不可欠な<都市施設>と、それ以外のすべて<土地利用>で構成される。
都市計画の論理的構成([計画]-規制/事業])と、内容的構成(<土地利用><都市施設>)から、都市計画法の定める都市計画の内容を分類した。<土地利用>は[規制]に、<都市施設>は[事業]によって計画が実現される。<土地利用>と<都市施設>を同時に扱う手法として、両者を[事業]によって実現する市街地開発事業と、[規制]が中心の地区計画がある

2-3-3 都市計画の手続き

現代の都市空間は、多数の異なる価値体系を有する主体に所有・利用されているため、[計画]の設定と、実現のための[規制][事業]の適用には、ともに社会的な同意「都市計画決定」が必要となる
都市計画決定手続きは主に、関係する他の公共団体との協議と、案に対する住民等の意見の反映である(図2-1)。住民等の意見を反映させる方法には、案を作成する際の公聴会と、2週間の案の縦覧とその間の住民や利害関係人からの意見書の提出の2つの方法がある。後者は、すべての都市計画の決定に際して義務付けられている
[規制][事業]の決定に際しては、土地所有権に制約を及ぼすため、制約を受ける権利者の参加が重要であるのに対し、[規制/事業]の合理性を説明する[計画]の決定に際しては、その地域で生活する市民一般の参加が重要となる
都市計画法の主要な[計画]には、都道府県の策定する「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」と市町村の策定する「市町村の都市計画に関する基本的方針」がある。前者は法の求める手続きが必要な都市計画決定であるのに対して、後者はそうでない。
「市町村の都市計画に関する基本的方針」は都市計画決定でないため、法による厳密な手続を踏む必要はないが、簡略化を意味するのではなく、むしろ全く逆に、住民等の意見の反映方法に、より積極的な創意工夫が求められているというべきである

2-3-4 都市計画事業

積極的に[計画]を実現する[事業]化の手法の1つとして「都市計画事業」がある。都市計画事業として認可されると、その事業は土地収用法の対象事業となる

2-4 都市計画の支援体系

2-4-1 都市計画の財源

都市計画の財源には都市計画税と受益者負担金があるが、現実の都市計画の執行には不十分な状況にある

2-4-2 都市計画審議会

都市計画審議会は都市計画法に基づいて都市計画案を調査審議する機関であり、都市計画の決定手続きにおいて、住民等の意見を考慮して当該案を議決する役割を持つ。地方分権が進む今日、都市計画審議会の役割は極めて重要だ